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最高裁判所第三小法廷 昭和35年(オ)955号 判決 1963年4月23日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

上告代理人馬場秀郎の上告理由について。

論旨は、上告人両名は原審において、本件建物の各一部についての賃借権保全のため建物所有者たる訴外永田文蔵に代位して本件建物の買取請求権を行使し、その結果、本件建物の所有権は永田より被上告人に移転し、その賃貸人たる地位もまた被上告人に移転するから、被上告人の本訴請求は失当として棄却さるべきであるにも拘らず、原審が建物賃借人による買取請求権の代位行使は許されないとしてその請求を認容したのは、買取請求権の経済的機能を誤解し、法律解釈の判断を誤つたもので破棄を免れない、というのである。

しかしながら、債権者が民法四二三条により債務者の権利を代位行使するには、その権利の行使により債務者が利益を享受し、その利益によつて債権者の権利が保全されるという関係が存在することを要するものと解される。しかるに、本件において、上告人らが債務者である訴外永田文蔵の有する本件建物の買取請求権を代位行使することにより保全しようとする債権は、右建物に関する賃借権であるところ、右代位行使により訴外永田が受けるべき利益は建物の代金債権、すなわち金銭債権に過ぎないのであり(買取請求権行使の結果、建物の所有権を失うことは、訴外永田にとり不利益であつて、利益ではない)、右金銭債権により上告人らの賃借権が保全されるものでないことは明らかである。されば、上告人らは本件建物の買取請求権を代位行使することをえないものとした原審の判断は、結局、正当である。所論は、独自の見解の下に原判決を非難するに過ぎず、(所論引用の判例も以上の判断となんら矛盾するものではない)採用のかぎりでない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊)

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